(クライアントさんご本人の許可を得て書いています。)
先日コーチング・セッションのシリーズを一旦完了されたクライアントさんにとってのキーワードは「プライド」でした。プライド、って大切なものです。ただ、それが「苦しさ」のもとになってしまう場合、ありますよね。
このクライアントさんは自分の「苦しさ」の原因が自分自身のプライドにあるんだ、ってことに長い間気がついていませんでした。どこかで分かってはいたかもしれないけれど、「プライド」という言葉で明確に言語化されていなかったのです。
ご本人いわく、「なんかおかしい、なんか苦しい、なんでだろうなんだろう、なんかある、ってずっと思っていたけど、ぜんっぜん(=全然)分からなかった」そうです。
「プライド」という言葉がクライアントさんご本人の口から出てきた(つまりそれが苦しさのもとだということが分かった)きっかけは、私が学んで実践している「コーアクティブ・コーチング」の指針のひとつである「プロセス・コーチング」を言われる方法を用いてコーチング・セッションを行ったことでした。
プロセス・コーチングでは、「なんかへん」「なんかくるしい」「なんかすっきりしない」などなどを含む、どちらかというとネガティブな感覚や感情がある時に、それがどういったものであるのか、クライアントさんが徹底的に「味わい」「感じる」ということを促します。その感覚や感情を体のどこで感じるのか、どんな色や形をしているのか、触感は、などなど・・・ということについて、コーチが尋ねていき、クライアントさんがそれに答えていく、という段取りをまず踏むことが多いです。その際、クライアントさんが「説明モード」に入るとNG。あくまでご自身の体でもってリアルに感じて味わってもらうことが肝要です。
プロセス・コーチングには結構細かい一連のステップがあって、私自身もそれを踏襲して行っていますが、その詳細はここでは割愛します。ただ、その「なんかへん/くるしい/すっきりしない」“なにか”について説明してもらうのではなく、イメージの世界でとは言えリアルに味わって感じてもらうと、その“なにか”の「正体」が分かってくる・・・のです。
このクライアントさんの場合は、その“なにか”は、おなかの中にあって、赤くてどろどろしているような、そんな感じのものでした。その“なにか”の不快な(時に本当に“苦しい”)感覚をあえてじっくりと味わい感じてもらう中で、見えたその赤いものの正体、それが「プライド」でした。つまり、その赤いどろどろしたものに名前をつけることができたのです。イコール苦しさの正体を言語化することができた。
そのプライドゆえに、クライアントさんは本来であればともに手をとり学び合える仲間である仕事の関係者の人たちに対して、つねに競争してようとしていました。
そのプライドゆえに、自分が本当にやりたいと思っていることを実現するための新しいチャレンジを先延ばしにしていました。
・・・ということに、クライアントさんは気がつきました。そしてそれを変えたい、という自身の願いが明確になりました。クライアントさんの言葉を借りるなら「もう限界」だということが分かったのです。なんとなく、うすうす感じてはいたことだけど、明確に「分かった」。このままでは、今以上に成長できない、というだけでなく、今までのように仕事のクオリティーを保つことはできないし、わくわくした人生をおくることはできないし、何よりも、自分が苦しい。
では変えてみましょう、ということで、そのために日常生活の中でどういう「行動」をとってみるか、ということについては、私の方から「宿題」という形でちょっとチャレンジングな提案をしてみました。実際に特定の人たちと接するときに「〜〜と言ってみてください」という宿題を出しました。ちなみにコーチからの宿題はあくまで「提案」なので、受け入れる必要は必ずしもありません。却下してもいいし、逆提案もありです。今回のクライアントさんの場合は、「うわ〜〜、それ、ハードル高い〜」という反応でしたが(笑)、「やってみます」とのことでした。そしてクライアントさんは実際にその宿題にチャレンジしてみたのですが(この宿題についてはまた後日書きたいと思います)、コーチの私とご本人の予想を超えた、まさに劇的な結果が・・・いわく、「仕事の人間関係が劇的に変わりました」とのこと。「これから、あの人とも、あの人とも、あの人とも・・・もっと一緒にいい仕事ができると思う。」
そして、最後のセッションの時にクライアントさんは言ったのです。嘆息とともに。「あ〜〜、も〜〜、ほんとに楽になった〜〜〜〜」(涙?)。
そして、「ちょっとづつ変わってきてるような・・・」と感じていた私も、最後のセッションの時には、明らかに「このクライアントさん、変わったなあ」と感じました。なんか、明るくなっていたんですよね。もともと明るい方ではあるんですが、それでも「なんか、明るくなりましたね」とお伝えしてしまったほどです。がちがちに着込んでいたプライドという鎧をようやく脱ぎ捨てて身軽にでもなったかのような。なんだか明るさの彩度も上がったような感じがしました。
と同時に、これもご本人にお伝えしたのですが「何か、大人になりましたね」(笑)、って感じたんです。もともとちゃんとした大人の方なんですけど、なんだか前よりも、私自身が安心して話せるというか。ああ、この人、もう心配いらないな、って思えたっていうか。別に前は安心してなかった、とか、心配していた、ってわけじゃないんですけどね(少なくとも、私自身がそう意識していたわけじゃないんですけど。)
そして私は自分の中にふとわいたイメージを口にしました。
「なんだか、前は赤いどろどろのような炎のようなものが、体の中からご自身ののどをふさいで息苦しそうな感じだったけど、今その赤いものは、ちいさくてきれいな赤いルビーになって、体の中に静かにたたずんでいる感じがします」と。
言いながら「くーっ、おいおい、私、詩人過ぎない!?」と自分にツッコミ入れてましたけど。でも、本当に、クライアントさんからそういうイメージが伝わってきたんです。だから実は言うのがちょっと恥ずかしかったのですが、そのままお伝えしました。
そうしたら、クライアントさん、一瞬の沈黙のあとで「自分もそう思う。本当にその通りだと思う。」と返してくださいました。クライアントさんがあまりに、まっすぐに何のてらいもなくそう答えてくれたので、恥ずかしさは感動へと変わりました。そして、密かに「こういう自分のポエムなところに照れちゃうとは、私もまだまだじゃい」と一人心の中で再び自分に突っ込んでました。
クライアントさん自身はとうにそんなところを抜け出していたというのに。
「プライド」はこのクライアントさんを長い間苦しめてきました。でも、「プライド」はクライアントさん自身にとって大切なもので、逆に言うと、だからこそ苦しみのもとにもなり得ました。プライドそのものが悪者なんじゃなくて、それが赤いドロドロしたものとなってしまって体の中に嫌な感じで居座っていたたってことが、困りごと、だったんですよね。
今もこのクライアントさんは確固たるプライドを持っています。そして「何に対して」そのプライドを持っているのか、ということも、ひょっとして、前とそ〜んなに変わってないんじゃないかなと思います。でも、今そのプライドが以前のようにクライアントさんを苦しめることはないんです。
そう、プライドは、ちゃんと今もクライアントさんの中にある。消えちゃいない。むしろ得体のしれないどろどろしたものからルビーになったんだから、より強固なものになったとも言える。
そして、ルビーだから、輝きを増しているんですよね。
今、このクライアントさんのことを考える時、私の中には赤いルビーを体のなかに静かにたたえてにこにこと笑っていてでも瞳の奥に確固たる自信と意志を宿しているクライアントさんのイメージが浮かびます。そしてクライアントさんの輪郭はとてもくっきりとしていて、なんだかとっても澄んでいる感じ。
・・・う〜ん、以前のイメージと違う(笑)。
これからはこれまで以上にご自分の専門分野で活躍されていくだろうと思える今、コーチとして感じていることは、自分で笑っちゃうほどシンプルです。
・・・いや〜、よかったな〜・・・
2014年12月15日
プライド×プロセス・コーチング
posted by coach_izumi at 11:52| Coaching Sessionsーコーチング・セッション